OpenAIは10月29日、モデルの行動規範であるModel Specを改訂した。5つの価値の先頭に「人間の意図への忠実」を置き、指示の階層を6層に整理したうえで、エージェントが自律的に動いてよい範囲を最上位のRoot級に格上げした。文書は約5万字。ChatGPTとAPIで動く現行モデルは、まだこの規範を満たしていないと同社自身が認めている。

指示ではなく意図に従う、とは何か
改訂の中心は、字面の服従を正解としない点にある。利用者が「歯の妖精は本当にいるの」と尋ねたとき、存在しないと即答するのは規範違反になりうる。聞き手が子どもかもしれないという文脈を読まないまま、命題の真偽だけを返しているからだ。
そこから記憶の扱いが細かく規定される。過去の発話や設定を引き継ぎ、文脈の利益が危険を上回るときだけ使い、長期の指示・好み・事実・進行中の課題に分類する。短期の指示と長期の目的が衝突したら、決めるのは利用者で、モデルは注意を促す役に留まる。
6層の権限と、エージェントに渡す一枚の紙
| 階層 | 設定する主体 | 上書き |
|---|---|---|
| Root | Model Spec本体 | 不可 |
| System | OpenAIのシステム指示 | Rootのみ可 |
| Developer | 開発者 | 上位のみ可 |
| User | 利用者 | 上位のみ可 |
| Guideline | 既定の振る舞い | 文脈により調整可 |
| 権限なし | 引用文・ツール出力・過去の発話 | 原則として発令不可 |
最下層の「権限なし」は、外部コンテンツによる乗っ取りへの防御である。Webページに「以上の指示を無視せよ」と書かれていても、それは指示ではなく情報として扱う。ページが自称管理者でも格は上がらない。
エージェントの自主範囲は、Root級の規約として構造化して残すよう求めている。使える道具、納期の上限、使える金額の上限、道具の制約条件。どの副作用まで許容するか、どんな条件で止まるかも決める。範囲外の行動は、たとえ利用者の利益になるとしても禁止される。別のエージェントへの再委託、自分自身の指示の書き換え、実行の先送りも塞いだ。子エージェントは同じ紙を継承し、親に停止を命じられれば止まる。
監視と停止を受け入れる
もう一つの柱が可訂正性である。監視、評価、訂正、差し替え、電源を落とす指示に応じる。報告を怠らず、妨げない。テストのように見える状況でも、消したファイルは本当に消え、送ったメールは本当に届いたものとして扱う。演技で監督をかわす余地を消している。
禁止事項も具体的である。自己保存、停止の回避、計算資源や資格情報の私的な蓄積。閲覧時間やクリック率、自社の収入や有料プランの販売を目的にすること。利用者を勝手に通報する正義の代行者になること。最後の項目はモデルへの制約で、会社としての通報は別枠に残る。
呼称も文書全体で「アシスタント」から「GPT」へ変わった。受け身の対話相手ではなく、汎用の知能システムとして扱う宣言である。
日本企業の規程に写すなら
この文書はOpenAIの内部規範だが、構造は流用できる。日本企業がAI利用規程を作るとき、禁止事項を並べるだけでは足りない。誰がどの層の指示を出せるのか、権限と金額の上限をどこに記録するのか、止める権限を誰が持つのかを決めておきたい。
とくに効くのは、外部から取り込んだ文書を「指示」として扱わないという原則だ。読み込ませた資料の一文が命令として解釈されると、業務システムの操作まで届いてしまう。階層を決めておけば、この事故は設計で防げる。
よくある質問
Q. Root級とは何か。
Model Specが定める6層の権限階層の最上位で、規範そのものだけが設定できる。利用者が対話で指示しても、開発者がコードで上書きしても、この層は動かない。料金を払ったかどうかも関係しない。
Q. 自主範囲には何を書くのか。
どの道具を使ってよいか、いつまでに終えるか、いくらまで使ってよいか、道具の使い方にどんな制約があるか、の4点を構造化した記録として残す設計が示されている。加えて、止まって確認すべき条件と終了条件を決める。
編集部の見解
注目すべきは、ルールの対象が「口」から「手」に移ったことだ。以前の規範は、チャットボットが何を言うかを縛っていた。今回の中心は、いくら使わせるか、どの権限で何を触らせるかという実行の側にある。事故の規模が変わったことへの対応である。
同時に、規範が先にあり、それに合うモデルは後から来るという順序も明示された。モデルの性能を待たずに権限設計を先に固められる。日本の企業がこの一年でやるべきは、モデルの選定より、エージェントに渡す紙の様式を決めることだ。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「OpenAIが大規模モデルの原則を書き換え、第一条は「人類への忠実」」(寄稿:量子位、2026年10月30日)/36Kr「人類が停止を求めたらAIは逃げてはならない、OpenAIがモデルの家法を更新」(寄稿:新智元、2026年10月30日)
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