生成AIが仕事の格差を縮めるのか、広げるのか。ハーバード・ビジネススクールの研究者らが、StripeとCheckrの営業236人へのアンケートと、収益責任者8人への聞き取りを行った。結論は、AIは全員を助けるが、恩恵の大きさは上位層に偏るというものだった。

2つの見方はどこで分かれるのか
1つは平準化の見方だ。AIが業務の流れに埋め込まれ、型と答えと助言を配る。経験の浅い担当者でも平均的な成果を出しやすくなる。
もう1つは拡大の見方だ。定型だが欠かせない作業が自動化され、上位層は高付加価値の仕事に時間を回せる。もともとその領域が得意なのだから、差は開く。
研究が置いた問いは、どちらが勝つかではない。実際の職務では、定型作業と判断を要する作業が同時に走る。両方を合わせたときに、どちらの効果が上回るのか。ここが採用、育成、チーム構成、制度設計の前提を決める。
上位層は何をしているのか
調査で見えたのは、時間の節約より道具の組み替えだった。成果の高い層は、自分で軽量なツールを作り、週次でAIの共有会を開き、互いにプロンプトを交換する。自然言語で開発できる道具で試作し、効果が出たものを中央のチームに渡して製品化させる。使う側と作る側の往復が起きている。
一方、上位層が中央に求めるものは決まっている。データ、権限、承認済みの知識ベース、評価基準、安定して動くエージェント、利用できるツールの一覧、顧客管理に関する安全上の制約。ここが整っていないと、現場の試作は監査で止まる。
| 論点 | 判断の分かれ目 |
|---|---|
| 採用と面接 | 道具を使いこなす力を見るか、業務の理解を見るか |
| 入口職の設計 | 定型作業をAIに渡した後、何を経験として積ませるか |
| 自研か購入か | 汎用は買い、差別化に関わる部分だけ自研する |
| 権限の配分 | 文脈は集中管理し、探索は現場に渡す |
自研と購入はどう分けるのか
事例は分かりやすい。Stripeは汎用的な処理には既存の道具を使い、機密性の高いデータや複雑な製品の論理、業界固有の業務ルールが絡む部分は自前で作る。Brexも同じで、メモから顧客管理の項目へ転記するような作業は既製品、差が付くのは自社のデータと業務の論理だと見る。
Vercelの最高執行責任者ジャンヌ・グロッサー氏は、エージェントが力を発揮するには整ったデータ層が要ると語った。顧客、顧客の階層、商談の定義を自社の言葉で書き込んだ層である。ここが整っていなければ、どれだけ良いモデルを入れても出力は安定しない。
ただし、これはAIの能力と資金に余裕のある企業の話だ。多くの企業は、社内の技術力、案件の複雑さ、導入のリスク、回収までの期間を見て決めるしかない。アクセンチュアの担当者は、自研の判断にはプラットフォーム費、Token費、開発人材、保守を含めた総保有コストを積む必要があると指摘している。
よくある質問
Q. 調査対象は営業職だけか。
営業で検証したのは、定型作業と判断作業が同居する職種だからだ。著者らは、同じ構造を持つ職種、たとえばコンサルティングや顧客対応、知識労働全般でも同じことが起きると見ている。ただし検証したのは営業のみである。
Q. 平準化は起きないのか。
起きる場面はある。型が決まった処理や、判断の余地が小さい作業では、経験の差が埋まりやすい。差が開くのは、何をすべきかを決める工程が残る職務である。
編集部の見解
この調査で実務に効くのは、権限の配分のところだ。文脈を中央に集め、探索を現場に渡す。逆にすると、現場は好き勝手に作り、中央は監査で潰す。往復の回数だけが増えて、何も残らない。
日本の企業で心配なのは入口職である。新卒が定型作業を通じて顧客と業務を覚える設計をそのまま残し、その作業だけをAIに移すと、学ぶ機会だけが消える。何を経験として残すかを、職務記述の段階で書き直す必要がある。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「同じAIを使っても、優秀な人材ほど大きな果実を得る理由」(寄稿:ハーバード・ビジネス・レビュー、2026年10月27日)
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