Anthropicがナスダック上場に向けたS-1を公開した。2026年上期の売上高は162億8,600万ドル、純損失は807億4,800万ドル。だが損失の約724億ドルは評価額の上昇に伴う非現金の会計処理で、調整後の営業利益は16億1,800万ドル、営業利益率は10%だった。内訳の読み方が問われる。

売上162億ドルは、どこから来ているのか
売上の8割はAPIの従量課金である。2026年上期は約130億6,000万ドルで全体の80.2%、サブスクリプション収入は約32億ドルで19.6%を占めた。2024年時点の従量課金比率は75%、2025年は83%だったので、直近でサブスクの比率がやや戻している。
807億ドルの赤字は、現金が出ていったという意味か
そうではない。上期の純損失807億4,800万ドルのうち、723億8,800万ドルは転換社債・デリバティブ負債・SAFEの公正価値変動による損失である。企業価値が上がるほど負債の評価額も上がり、会計上は損失として計上される仕組みだ。現金は動いていない。
経営の実態に近い数字はこちらになる。同期のGAAP営業損失は6億9,300万ドル、調整後営業利益は16億1,800万ドル、調整後純利益は26億7,100万ドル、粗利率は85%。
売上の質を考えるうえで見落とせないのが顧客の集中度だ。上位2社がそれぞれ売上の約12%、合計で約25%を占める。当初の観測ではCursorとGitHub Copilotとされたが、公開版ではAmazonとGoogleだった。さらに売上の47%は両社のクラウド市場を経由して計上され、取次手数料として16%(約3億5,100万ドル)を販売費に計上している。
8,000億ドル規模の算力契約は、何を固定するのか
| 契約先 | 金額 | 期間・性格 |
|---|---|---|
| Broadcom | 約1,612億ドル | 5年間の機器リース(利息除く) |
| 少なくとも1,145億ドル | 2026〜2033年、クラウドとTPU | |
| Amazon | 少なくとも1,100億ドル | 2026〜2036年 |
| SpaceXAI | 最大1,205億ドル | 2029年まで、NVIDIAクラスタ |
| Microsoft | 少なくとも449億ドル | 2026〜2033年 |
| Nscale | 約446億ドル | 公開版で新たに開示 |
| Lambda | 約413億ドル | 公開版で新たに開示 |
単純に足すと約6,570億ドル。これにTPUの追加調達分とされる1,250億〜1,500億ドルを加えると8,000億ドル前後になる。最低額と上限額が混在しているため、合計値は参考程度にしかならない。
重要なのは金額より条項だ。報道によれば、契約の約8割が使わなくても支払う義務を伴うテイク・オア・ペイ方式で、実支出が想定を下回った場合は差額を補填する必要がある。解除の余地があるのはSpaceXAIとの契約だけで、2027年1月と3月の初期解除不能期間を過ぎれば90日前の書面通知で解約できる。設備は12〜18カ月先に発注するため、需要予測が外れれば遊休か不足のどちらかになる。
上場しても、議決権の半分は創業者側に残る
資金を出す投資家の立場は、通常の上場企業とは違う。Anthropicは公益企業(PBC)として登記されており、定款上、株主利益と並んで「責任あるAI開発」が目的に位置づけられている。7人の共同創業者は1株だけのクラスF株式を通じて50.1%の議決権を確保する。長期利益信託は取締役7人のうち4人を選ぶ権限を持つ。株式の5%は公益基金に拠出される。
よくある質問
Q. 上場で何が変わるのか。
資金の調達先が公開市場に広がるだけで、契約構造は変わらない。8,000億ドル規模の長期契約と50.1%の議決権は上場後も維持される。むしろ四半期ごとの開示が加わり、算力の前払いと収益の認識時期が外から見えるようになる。
Q. 上場はいつになるのか。
発行価格も上場日も未定である。SECの規則では投資家向け説明会の開始前にS-1を公開する必要があり、公開から15日以上の間隔が要る。11月第2週以降に説明会が始まる可能性が報じられている段階だ。
編集部の見解
この書類で読み取れるのは、モデルの性能競争が調達競争に置き換わりつつあるということだ。8,000億ドル規模の長期契約は、値下げの原資が技術ではなく資金調達コストで決まる段階に入ったことを意味する。APIの単価が下がり続けるという前提で業務を設計している日本企業は、その前提が調達側の事情で反転しうることを織り込んでおきたい。
my-best.ai 編集部
出典:36Kr「Anthropicが335ページの目論見書を公開、史上最大のIPOにして史上最大の赤字AI企業に」(寄稿:量子位、2026年10月27日)/36Kr「650億ドルARR、800億ドル純損失、最強AI企業の正体」(寄稿:定焦、2026年10月27日)
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